嫌な予感がしていた。
お願い、これ以上、私の大切な人たちを奪わないで。
「心配かけて悪かった。ほら、泣くな」
そう言って、天元さんは右手で私の頭をくしゃくしゃと撫でた。
その大きくて温かな手は健在で、少しほっとする。
遊郭に鬼の潜入調査に行っていた雛鶴さんたちを追って、天元さんや善逸くんたちも調査に向かっていた。
しかしそこで十二鬼月の上弦という、鬼の中でもかなり強い鬼と遭遇し、戦いになったらしい。
天元さんは、左腕を失い、左目も見えなくなってしまった。
それでもそれを除けば意外と元気で、顔を見た瞬間、気が抜けてしまった。
「とりあえず全員生きて帰って来られただけでも儲けもんだ」
「ぜ、善逸くんたちは」
「生きてる。だがまだ意識が戻らねぇ」
「・・・」
「そんな顔しなくてもまだ生きてる。だから付いててやれ」
「・・・はい!」
「気が付いた瞬間にお前の顔見られたら、泣いて喜ぶだろうさ。主に善逸の話だがな」
「・・・そんなことはないと思いますけど、精一杯看病してきます」
部屋から出て、ふーっと息を吐く。
そして善逸くんたちの部屋に行くと、彼らはまだ目を開けていなくて、ぎゅっと胸が締め付けられた。
ダメだ。私が弱気になってどうする。しっかりしないと。
自分の頬を軽く叩いて気合を入れ、仕事に向かった。
次の日の朝、彼らの様子を見に行っても、特に変わった様子はなかった。
善逸くんも変わらず目を覚ましていない。
思わずため息を吐くと、途端に寂しさに襲われた。
そっと善逸くんの手を取ると、温かさが伝わってきた。
「・・・私を置いていかないでよ・・・」
思わず呟く。
あの虚無感を、また感じるなんて御免だ。だからお願い、私のそばにいてよ。
「・・・ん」
握っていた手がピクリと動く。
はっとして顔を覗き込むと、善逸くんの目がゆっくりと開いた。
「・・・っ、善逸くん!」
「・・・なまえさん?」
ゆっくりと目線をこちらに向けると、ぱちっと視線が合う。
すると善逸くんは、何やら嬉しそうに、にんまりと笑った。
「目が覚めて最初に見たのがなまえさんの顔なんて、嬉しすぎて泣きそう」
「・・・ふふ、なにそれ」
善逸くんの意外な第一声に、思わず笑ってしまった。
あ、天元さんの言ってたこと正しかったな。
「しのぶさん呼んでくるから、ちょっと待ってて」
そう言って部屋を出ようとすると、なまえさん、と後ろから声をかけられた。
立ち止まって振り返ると、善逸くんがじっとこちらを見て言った。
「俺は、なまえさんを置いて死んだりしないよ」
「っ!!」
さっき私が呟いたことを聞いてた?いや、そんなわけない。
優しく私を見つめるその視線に、思わず涙がこぼれそうになって、ぐっと堪える。
「ありがとう」
なんとかそれだけ言って、私はしのぶさんの部屋へと急いだ。